研究概要

ぺルオキシソームの形成とその障害の分子機構

生物の基本単位である細胞が自らの遺伝情報に従って,その構造を創り上げ,複製し,またそれを制御していく機構を明らかにすることは分子細胞生物学の重要な命題です。真核細胞においては,細胞内小器官(オルガネラ)が細胞機能の発現の中心的役割を担っており,その中でもペルオキシソームは極長鎖脂肪酸のβ-酸化,プラスマローゲンとよばれるエーテルリン脂質や胆汁酸の生合成など,多岐にわたる必須な機能を有することが知られています。また,細胞内タンパク質選別輸送,オルガネラの形成とその障害機構など,いわゆるプロテインキネシスの課題解明に適したモデルオルガネラとして,近年その研究が著しく進展しています。私たちの研究室では,ペルオキシソームの形成・制御機構の解明と,その形成過程の破綻であるヒトの重篤な遺伝性疾患,ペルオキシソーム欠損症(ツェルベーガー症候群など)の病因と発症機構の解明を主題とした、細胞内トラフィックおよびオルガネラ恒常性維持のダイナミズムの問題に取り組んでいます。

ペルオキシソームとは

ペルオキシソーム (peroxisome) は,極長鎖脂肪酸(炭素鎖C22以上)のβ酸化やプラスマローゲン型エーテルリン脂質の合成など多様な機能を持つ。私達の研究室ではペルオキシソーム形成機構の解明と,その形成過程に異常があると考えられるヒトの重篤な遺伝性疾患,ペルオキシソーム欠損症(異常症)の病因解明を主題とした細胞内トラフィック/オルガネラの形成と制御のダイナミズムの問題に取り組んでいる。以下,その概要を紹介する。
ペルオキシソームの形成機構については、細胞質の遊離型ポリソームで合成された構成タンパク質が翻訳後すでに細胞内に存在しているペルオキシソームに移送され、その結果ペルオキシソームが成長、分裂して増殖していくと考えられている。なお、ペルオキシソーム構成タンパク質の選別輸送にかかわる輸送シグナルとして現在までに2つのタイプ (PTS1およびPTS2) が同定されている。PTS1 はC末端3アミノ酸配列であり,PTS2 はプロセッシングを受けるN末端部シグナルである。

ペルオキシソーム欠損性動物変異細胞の分離と相補遺伝子のクローニング

ペルオキシソームの形成機構については、細胞質の遊離型ポリソームで合成された構成タンパク質が翻訳後すでに細胞内に存在しているペルオキシソームに移送され、その結果ペルオキシソームが成長、分裂して増殖していくと考えられている。なお、ペルオキシソーム構成タンパク質の選別輸送にかかわる輸送シグナルとして現在までに2つのタイプ (PTS1およびPTS2) が同定されている。PTS1 はC末端3アミノ酸配列であり,PTS2 はプロセッシングを受けるN末端部シグナルである。

ペルオキシソームの生理的機能や形成機構,さらには Zellweger 症候群に代表される致死性ヒト先天性ペルオキシソーム欠損性疾患群の原因遺伝子の究明を主目的として,CHO (Chinese hamster ovary) 細胞よりペルオキシソームを欠損した変異細胞の分離を試みてきた。その結果,現在までに13の相補性群に分類されるペルオキシソーム欠損性変異細胞の分離に成功している。これらCHO 変異細胞と現在までに12の相補性群が知られているペルオキシソーム欠損症患者(Zellweger 症候群や新生児型副腎白質ジストロフィー)由来線維芽細胞との細胞融合実験から,10種,それぞれZ24/ZP107, Z65, ZP92, ZP105/ZP139, ZP109, ZP119, ZP124, ZP128, ZPG207 および ZPG208がヒト相補性群に分類された。従って,現在のところ計15の相補性群に分類される変異細胞が哺乳動物系に存在することになる。すなわち,ペルオキシソームのアセンブリーには少なくとも15種の遺伝子(産物)が関わっていることを意味している(表2)。 次にペルオキシソームの形成に必須な因子を同定するために,これらのCHO 変異細胞に対し遺伝学的に変異を相補する活性をもつ cDNA のクローニングを行ってきた。その過程で変異細胞 Z65に対しペルオキシソーム形成を回復させる PEX2 (PAF-1)(図2)のクローニングが最初に成功した例である。現在までにこの方法でPEX1,PEX3,PEX5,PEX6,PEX12,PEX13,PEX14,PEX19 などの計10のペルオキシソーム形成因子(peroxin, ペルオキシン)cDNA を単離している。

Zellweger 症候群などペルオキシソーム形成異常症の全相補性群病因遺伝子の解明

Zellweger 症候群をはじめペルオキシソーム欠損症のうちの8つの相補性群に対する相補遺伝子(すなわち病因遺伝子)として,CHO 変異細胞を用いてPEX1, PEX2, PEX3,PEX5, PEX6, PEX12, PEX13およびPEX19 を単離した。例えば,ペルオキシソーム形成因子として初めてクローニングした PEX2 を第10群患者由来線維芽細胞へトランスフェクションしたところ,ペルオキシソームの形成が認められた。この患者は Pex2p (305 アミノ酸残基)配列中, Arg119 (CGA) の stop codon (TGA) へのホモ接合型変異をもつことが判明した。従って,本患者では Pex2pが発現されずペルオキシソーム形成不全の結果,Zellweger 症候群を発症したものと結論された[Nature 350, 77 (1991); Science 255, 1132 (1992)] 。私達のこれら一連の解析は,世界で初めて Zellweger 症候群病因遺伝子を解明,さらにはこの疾患が常染色体劣性遺伝病であることを遺伝子レベルでの解明した成果として高く評価されている。CHO変異細胞を用いた相補活性検定法による PEX 相補遺伝子の単離に加えて,私たちはこれまでに酵母遺伝子を用いたヒトEST DNA database検索によりPEX10,PEX16をクローニング,両者もペルオキシソーム欠損症患者の病因遺伝子であることを明らかにしている。現在までにペルオキシソーム欠損症のうちの11の相補性群に対し,病因遺伝子が明らかにされ、残るは相補性群A群(欧米8群)の原因遺伝子のみであった。長年の苦闘の末、我々ははごく最近、相補性群8群のCHO 変異細胞ZP167を用いた相補活性スクリーニング法により、新規遺伝子PEX26 のクローニングに成功した [Nat Cell Biol 5, 2003.] 。PEX26は、305 アミノ酸残基からなる34 kDaのN末側を細胞質に、C末側をペルオキシソームマトリクスに配向したII型ペルオキソーム膜タンパク質をコードしていた。Pex26pの機能として、AAA ATPaseファミリーに属するPex1pとPex6pとの複合体をペルオキシソームへリクルートすることが判明した。同時に、相補性群8群患者細胞でのペルオキシソーム形成回復と変異部位の同定により、一次的病因はPEX26の障害であることを明らかにした。この新規遺伝子の単離により、長年探索が続いた12相補性群中最後の相補遺伝子がクローニングされたことになる。
以上の成果により、ヒト先天性疾患ペルオキシソーム形成異常症12相補性群に対する全病因遺伝子の解明に至ったことになる。10年余でこれほど多くの疾患遺伝子が明らかにされた例は、ほとんどない。

PEX タンパク質 (peroxin) の機能

このようにしてクローニングされた PEX 遺伝子の転写・翻訳産物 (ペルオキシン) がペルオキシソーム形成過程のどの段階で如何なる機能を果たしているのかはほとんど明らかになっていない。Pex5p と Pex7p についてはそれぞれ PTS1, PTS2 のレセプターであること,Pex14p が Pex5p と Pex7pのドッキングサイトであり、タンパク質輸送・膜透過装置構成因子としてPex14p, Pex13, Pex12p, Pex10p, Pex2pが想定されているくらいである。多くのペルオキシンの生化学的機能の解明は今後の大きな課題である。

ペルオキシソームの形成制御過程研究における今後の重要課題

  1. マトリックスタンパク質の輸送装置の実体とその輸送機構を分子レベルで解明する
    新規ペルオキシンのクローニングと同定、タンパク質の輸送機序を解明、ペルオキシンの構造生物学的な解析、輸送装置の再構成系を構築
  2. ペルオキシソーム膜の生合成機構を解明する
    膜タンパク質の取り込み装置を明らかにする、膜の生合成に着目した他のオルガネラとのクロストークを解明
  3. ユビキチンが関与するペルオキシンの局在および分解の機構を明らかにする
    RINGドメインを持つペルオキシンの機能解析
  4. ペルオキシソームの機能亢進または分解による抑制のシステムを解明
    形態制御と分裂機構の解明、ペキソファジーによる分解システムの解明、ペルオキシソーム機能制御とシグナル伝達機構の接点を明らかにする
  5. ペルオキシソーム機能の障害と高次生命現象との相関を解明する
    モデル疾患動物を用いて高次生命現象に及ぼす障害(脳・中枢神経形成異常)を分子レベルで解明、プラスマローゲン生合成機構の解明とその障害による影響を明らかにする